弊社ではサロン向け美顔器の筐体部品を塗装しておりました。その美顔器にはガラスで出来たお肌に刺激を与える高周波発生装置が搭載されており、ガラス管こそがその製品の生命線でした。
ある日、突然の一本の電話が私たちの運命を変えました。「日晨さん、ガラスに塗装できない?」
この一言が、私たちの新たな挑戦の始まりでした。 お電話の相手は、美顔器メーカーの取締役。私たちの会社と直接の取引はありませんでしたが、私たちの技術力を弊社製品の納め先で美顔器メーカー様のブレーンでもある企業様から推薦を受け、その困難を解決できるのは日晨しかないと、藁にもすがる思いで連絡をくださったのです。そこで頼まれたのが、冒頭で説明した通り、美顔器の心臓部ともいえるガラス管への塗装技術の開発。その当時の製造方法は非常に原始的で、不良品が多くありました。また、ガラス管自体も非常に高価なため、廃棄が増えることでビジネスとして成り立たなくなってしまう寸前のところでメーカー様も悩んでいたようです。取締役と会談をした弊社社長は「とりあえず、一回やってみましょう。」 と即答。これが私たちの挑戦のスタートでした。 しかし、挑戦は簡単ではありませんでした。
取締役は原始的な手法をオートメーション化することで一定の品質を保つことが出来ると考えていたようです。しかし、ガラス管の内部、しかも細いチューブのような入り口に先端の複雑な構造への塗装を施す技術は当時の常識では不可能だとされていたのです。 塗装設備代理店も、「現状の技術では無理です」と言いました。 それでも、私たちは決して諦めませんでした。必要な技術を書き出してみると、塗装ロボット、特殊な吹付けノズル、そして、ガラスに密着し導電する塗料、どれも存在していないものでした。 ようやく見つけ出すことが出来たのは繰り返し精度が高い海外製の非塗装向けロボットだけでした。それでも私たちは希望を捨てず、塗料メーカーや設備メーカーに協力を呼びかけました。彼らも同じよう に「一緒にやりましょう」と賛同してくれたことは大きな励みとなりました。そこから約一年、専用の吹付けノズルを設計し、塗料配合費を調整し、私たちは何度も何度も設備メーカーのラボへ足を運んで試行錯誤を繰り返しました。何百回もの失敗を重ね、ついに量産へ向けて進む目処が立ち、弊社へガラス管塗装設備を導入しました。今度はラボでの再現を設備メーカーが新規設備にプログラミングを行いました。するとすぐに新たな問題が現れました。予定していた量産プログラムが進まず、作業は延長戦に突入。連日夜遅くまで取り組む技術者たちの疲労は限界に達していました。予定の日に
ちを 1 週間程過ぎたころだったでしょうか。出張で来ていた技術者たちは一度撤収すると言って来ました。
量産の日程も押し迫る中、社長が私に「お前がやれ」と一言。内心では不安でいっぱいでした。 ロボットの扱い方もわからず、塗料の特徴すらも十分に理解していない。けれども、もう後には引けませんでした。私は一人で、何度も試行錯誤を繰り返しました。技術者たちが組んでいた生産性を無視したプログラムを一つずつ解体し、効率を追求。塗料の調整もうまくいき、「これだ!」と確信しました。しかし、それも束の間。ガラス管の形状のせいで、塗料が乾く前にすべて落ちてしまうという新たな難題が現れました。その時、設備代理店の社長が一言。「塗装は主剤とシンナーが必要だよな。」 この言葉が突破口となり、長かった開発の道のりに光が差し込みました。詳細は企業秘密ですが、このシンプルな一 言がきっかけとなり、私たちはついに 95%以上の直行率を実現。これには美顔器メーカー様も大喜びでした。こうして、私たちは不可能を可能にし、新たな技術を生み出したのです。 この成功は、私たちが培った技術と共に、仲間たちとの力を合わせた挑戦の結晶です。